2022年10月に開催されたAdworldカンファレンスより、気になった内容をレポートにしていきます。
Adworldは毎年春と秋の2回開かれるオンラインカンファレンスで、マーケティング界隈の著名人含め60名以上のスピーカーがプレゼンします。有名どころだとセスゴーディンとか。参加者は世界160カ国以上の国から2万人を超えています。
私は毎年参加して面白そうなテーマのプレゼンをチェックしています。中にはセールス目的であまり中身のないプレゼンもありますが…「お、これは!」と思うものをブログで紹介していきます。有料カンファレンスなので全見せというわけにはいかず、内容を一部抜粋して私なりの解釈を加えたものになります。
今回は、「パフォーマンスの高いコンテンツファネルを構築するためにデザイン思考を原則を利用しよう」という内容です。
Myagi(ミヤギ)という小売とブランド間の情報連携ツールを開発している会社から、グローバルマーケティングマネージャーの方がプレゼンしていました。
コンテンツ作りには「バリデーション(妥当性の確認)」が重要
どんなコンテンツを作っていくべきか、「バリデーション(妥当性の確認)」が大事。バリデーションとは、自分がやっていることが意味あることか、効果的かをチェックするようなイメージです。
たしかに、ただやみくもにコンテンツを作っていっても成果を出すことは難しいですよね。しかも、時間のかかるコンテンツ作り。無駄なことはしたくないわけです。時間も手間も無駄にしたくないですし、大元となるコンテンツが意味のないものだと広告費の無駄にもつながります。
じゃあ、どうやってバリデーションをするの?
「デザイン思考」の原則に当てはめて考えていきましょう。という内容になります。
デザイン思考の何がいいの?
コンテンツ作りのプロセスには様々な方法があります。カスタマージャーニーに沿って作るとか。ちなみに私が現時点でしっくりきているのは、「ユーザーがヒーローになる」ことをゴールに12ステップを考えていくヒーローズジャーニーのフレームワークです(バズ部参考)。
今回のスピーカーがおすすめする手法がデザイン思考で、以下の状況で有効だと言います。
- コンテンツにたくさんの時間やお金をかける前にあなたの進め方が効果的かどうかを確かめる
- あなたの動きが効果的かどうか測る
- 最小限のコンテンツをテストする
デザイン思考とは?
デザイン思考といえばよく出てくるデイヴィッド・ケリー。スタンフォード大学にデザイン思考の部門を作り、コンサル会社IDEOの創設者でもある方です。彼が定義するデザイン思考とは、
“A way of finding human needs and creating new solutions using the tools and mindsets of design practitioners.” – David Kelly, co-founder IDEO
「デザイン実践者のツールとマインドセットを使って、人間のニーズを発見し、新しい解決策を生み出す方法」
デザインというとWebサイトのデザインとか、色彩やロゴをイメージしやすいですが、ユーザーのニーズを見つけ解決策を生み出すのをデザインというイメージです。
ユーザーニーズを見つけ、素早くプロトタイプを作ってテストを回して、また最初から繰り返して…というのがざっくりとしたフローです。
スピーカーいわく、
デザイン思考を使うことで、以下のようなことが可能になります。
- 顧客により近づける
- 顧客の課題を理解できる
- 意義あるコンテンツを生み出せる
- どこから手を付けるべきかがわかる
具体的なプロセスとしては4Dと呼ばれるものです。
Discover(発見)→Define(定義)→Develop(開発)→Deliver(提供)
この4つのステップに沿って進めていきます。
ステップ1「Discover」で潜在顧客の課題を発見しよう
潜在顧客の課題を理解することが先決ですね。一番大事なステップと考えていいでしょう。
カスタマージャーニー上でいうと「Awareness(認知)」「Consideration(検討)」「Decision(意思決定)」のポイントなどを明確にしていきます。
迅速かつ効果的に顧客課題を理解するには、理想的なペルソナに近い顧客にインタビューしたりオンライン座談会などを行うのがよい。複数人ペルソナがいればそれぞれやります。
単なるアンケートだと、回答を深掘りしたり広げたりするのが難しいからですね。
とまぁ、ここまでは想定内だと思いますが、気になったポイントが「マーケティングチームと営業チームで分かれてやって、お互いに持ち合うことがおすすめ」というところです。
たしかにマーケティングチームだけ、もしくは合同でやってしまいそうですが、それだとアイデアが偏りがちなので完全にわけてやるのはアリだなと思いました。
今はインタビューも座談会もオンラインが多いと思うので、バーチャルホワイトボードに質問を書いて、その下に回答の付箋をつけていくのがやりやすいと思います。こうすることでパターンを見つけてグループにしたり、コンテンツに影響するインサイトを見つけたりしやすくなります。
潜在顧客のPain, Gain, Barrierを知ろう
質問内容のポイントは2つ。
- カスタマージャーニーに即したもの
- Pain, Gain, Barrierを知るもの
マーケターにはお馴染みのこの3つですが、たしかにコンテンツ制作には大事ですよね。
Pain:取り除きたい痛み
Gain:獲得したい喜び
Barrier:変化を妨げるもの
PainとGainは人の原動力になるので、テーマ選びからタイトル、コンテンツの中身まで色々関わってきます。また、Barrierを知って対処しないと一生コンバージョンとれない。
カスタマージャーニーのそれぞれのフェーズに沿った質問例はこうなります。
Awareness(認知)
一番最初の痛みを見つける。痛みに着目した質問をする。
例)
- その分野で一番の課題は何か?→どんどん深掘りしていく
- 課題だと認識するトリガーは何か?
- 認識した時何をしたか?
※分野は、あなたのビジネスの分野です。マーケティングオートメーションツールを開発しているなら、マーケティングオートメーション。
Consideration(検討)
あなたを解決策提供者として考えるように手助けをするフェーズ。
何を得られるか、何を得ようとしているかがわかるような質問をする。
- 導入しようとすることを妨げる課題は何か?
- どんなトラブルが起きるのか
Decision(意思決定)
あなたを選ぶようにちょっと促すフェーズ。
内部、外部に何か止まらせるものがありそうなら、ストレートに聞いてみる。
- 何が購入を阻止している?
- どんなリスクを想定している?
- 何が不安で足枷になっているのか?
ここまでで顧客からたくさんの回答が集まっているので、次は整理していきます。
ステップ2「Define」顧客からのフィードバックを整理して重要なものを特定しよう
次は、集めたたくさんの顧客からのフィードバックを整理・分析して、重要なものを特定したり、パターンを見つけたりします。
ここではクラスター分析、つまり似た情報をグループ化していきます。
1つのグループ(クラスター)の下にサブテーマをいくつか分け、その中でPain, Gain, Barrierを見つけ出します。今まで顧客についてわかったつもりになっていなかったか?まっさらな頭で集めた情報を見て、視野を広げていきます。
ここで見つけた情報は顧客に刺さる内容となりうるので、会社のメッセージやキーワード選びなどあらゆるコンテンツ戦略に活かせる大事なもの。
たしかにそう。私も社内で「こう変えるべき!」といった提案をする際は、根拠は常に顧客の声。数値も大事なんですが、それだけでは見えないものが多いので。顧客の声はもっと大事。(もちろん、その意見が本当の心の声か見極める必要はあります)
あとはもっと機能的なこと、例えば今あるコンテンツがそのプラットフォーム(各ソーシャルメディア、Webサイトなど)に適したものになっているか、各プラットフォーム同士がぶつ切り状態になってしまっていないかなど。こういった具体的なポイントがフィードバックから見えてくれば、すぐ改善できるものが多いかと思います。よくあるのは、プラットフォームごとに特性は違うのに、同じようなコンテンツを出してしまったり、特性を活かしたコンテンツを出せていなかったりするケース。ちなみにこの使い分けは、大きいところだと私的にSEOツールのSEMRUSH社がうまい気がしてます。ブログ、Twitter, Facebook, Instagram, Youtubeなど色々発信しているのですが、同じ内容でも切り口や見せ方をうまく変えて各プラットフォームで発信しています。参考にしてみてください。
ステップ3「Develop」最適なコンテンツ案を見つけ出そう
Developステップでは、明確になった顧客課題に向けて、これまでと違った手法を生み出していきます。1人ではなく、できるだけ部署をまたがって複数人でインスピレーションを探します。
これまででわかった重要なもの、つまりあなたが価値を提供したいテーマについて、発信したいコンテンツ案を考えていきます。
ここでは判明したPain, Gain, Barrierをリフレーミングするようなイメージ。「アハ体験」とスピーカーは言っていましたが、確かにありがちなコンテンツではなく、新たな切り口かどうかを考えることが必要だと思います。一番最初の「Discover」の次にここは時間がかかりそう。
新たな切り口かどうかというのは、例えば、
あなた:セキュリティーソフトの会社
顧客の悩み:PCのセキュリティーが重要だとはわかるが、何をすればいいのかわからない
↓
ありがちなコンテンツ:セキュリティーが重要な理由7つ
新しい切り口のコンテンツ:ハッカーはなぜあなたのPCを狙いたくなるのか?
これは一つの例ですが、「セキュリティー視点」ではなく「ハッカー視点」に変えるというもの。書く内容は結局同じようになると思いますが、目線が違うだけで少し目を惹きます。
こういうちょっとひねった感じが良い!というわけではないですが、すでにコンテンツが溢れているような分野だとこういう思考は大事です。
潜在顧客が自分で課題を解決する方法を示そう
コンテンツを作る時の注意点としてスピーカーが言っていたのは、「あなたなしで課題を解決する方法を示してあげる」こと。つまり、あなたの商品サービスを選ぶかどうかに関係なく、潜在顧客が自分だけで解決できるベストな方法を提案することです。
なぜなら、課題解決のコンテンツはほぼ認知フェーズのコンテンツになります。このフェーズの人はあなたの商品サービスについてほとんど興味はありません。ここでできることは、まず信頼を獲得すること。「ここまで教えてくれるんだ!」と信頼してもらってから、ようやくあなたの商品サービスの提案をしていきます。この流れは特にB2B企業には有効です。色々と悩む期間(検討時間)が長いですし、商材の価格帯も高いことが多いですから。この認知フェーズのコンテンツでいかに「この会社こそ!」と思わせるかが重要になってきます。
最初から自社商品サービスを売り込みしてくるところには、基本的に人は怪しさを感じます。まずはできるだけお金をかけず自分で課題を解決する方法を提案します。もちろんコンテンツ自体は無料で誰でもアクセスできるようにします。そうすると、多くの人が「あなたは解決策を教えてくれる人」として、あなたのコンテンツに集まってきます。常にあなたを参考にし始めます。そこから自分で色々調べてまとめるよりも、あなたを参考にする方が圧倒的に効果的だと気づくのです。
すべてのPainに対してコンテンツ案を考えよう
整理したPainをすべて確認し、少なくとも1-2つの認知フェーズコンテンツのアイデアを見つけていきます。
そして、そのアイデアに対してやるべきJob、ミッションを設定します。これは、後からコンテンツの内容がずれていくのを避けるためです。
たしかに、コンテンツを作っていくうちに自社都合だったり手間を惜しむ自分都合だったり、知らず知らずのうちに顧客視点から離れてしまうことはよくあります。さらにコンテンツ制作のプロジェクトは複数人で進めることが多いですから、コンテンツの意図や背景を誰でも理解できるように記録しておく必要があると思います。
意思決定に向けたコンテンツも用意しよう
認知フェーズの次のコンテンツは?というところについては、こんな感じ。
検討フェーズのコンテンツ
- あなたの商品サービスについて、より知ることのできるコンテンツ
- 具体的に何を助けてくれるかを疑似体験させるコンテンツ、ケーススタディー(導入事例)
意思決定ステージのコンテンツ
- ケーススタディーのインタビューやお客様の声
- 背中を押すようなコンテンツ(迷いを克服させる)
スピーカーが「こういったコンテンツは営業担当のような働きをする」と言っていましたが、本当にそう。
最初の顧客インタビューで出てきた課題に対してはもちろんですが、これまでのよくある問い合わせを分析して、「これを見ればわかります」と送ってあげられるようなコンテンツ(Webページや冊子など)を作るのがいいと思います。
書くべきコンテンツがたくさんあって、どこから始めたらいいかわからない
コンテンツ案がたくさんあってどうしよう?と悩んでいる場合は、
- インパクトが大きい(よりCVに近い、ブランド形成に大事、認知拡大できる、需要が多い、月間検索数が多いなど)
- 作るのが簡単
こういったコンテンツから始めていきましょう。全体の優先順位をあらかじめ考えておくと進めやすいです。
ステップ4「Deliver」でコンテンツをテストしよう
最後は、実際にコンテンツをテストするステップです。まずは小さいスケールで始めて、ダメだったら改善を繰り返していきます。コンテンツをもっと良くしたいと考えていくとキリがありません。スピード感を持ってコンテンツ発信をしていき、やるべきことやめることを見極めていきます。
大きな流れはこうなります。
コンテンツを配信する
↓
シェア数、いいね数、CTRなどをチェックする
↓
パフォーマンスの高いコンテンツを拡大していく
ここで、スピーカーが話していたポイントをいくつか抜粋します。
ポイント1:まずブログ記事は作る
最初にどんなコンテンツを作るかというところに関しては、安く作れるブログ記事が最適。その中で多くのエンゲージメントを獲得したコンテンツを見極め、今度はお金をかけてフォーマットを変えて広く展開していくのが良い。Podcast、ウェビナー、eBook、オンライン教材、インフォグラフィックス、動画、interactive contentなど。
ポイント2:検討・意思決定コンテンツはSEMで配信する
検討・意思決定フェーズのコンテンツは、ソーシャルメディアよりも検索エンジンで展開していくのが効果的。これは、単にスクロールしていくソーシャルメディアとは違い、検索エンジンでは知りたい情報を積極的に具体的に探しているからです。そのためより確度の高い潜在顧客をつかまえやすくなります。
ポイント3:広告と実際のコンテンツの乖離はなくす
広告でアピールする内容と実際のコンテンツの内容にずれがないようにする。もし広告からサイトコンテンツへいってからの直帰率が高いなら、広告で期待させた内容を違うということ。内容に乖離がないようにするのはもちろん、CV率を上げるために以下のようなことをやる。
- あなたの商品サービスに関する重要な情報は探しやすくする
- 顧客のニーズや心配事を理解して、それに明確に答えたメッセージや作りにする
- コンバージョンへの動線をわかりやすくする
さいごに
デザイン思考の流れでコンテンツを作っていく、というのは1つの心の拠り所になるなと感じました。自分の作っているコンテンツが「本当にいいコンテンツか」という不安の中で、自分自身も納得感をもって進めていきたいですし。
ただ、デザイン思考を使ったとしても、コンテンツ作りはあくまで仮説から生まれるもの。効果検証しながら柔軟に変えていくしかないかなと思います。「これこそが完璧だ」とおごらずに、どこかで必ずズレが生じるものと思っておくのがいいのかなと感じます。
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